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少女は杖を抱き締め、そっとレインを見る。
彼の周りには魔物が取り囲み、とても近寄れる様子ではない。
奇妙な光景だった。
魔物が人間を守るように寄り添う姿が。
「……そ、そんな怪我で……何処に向かわれる…ん、ですか……?」
「……大丈夫だよ」
レインは自分の体の状態を確認してから、緩く息を吐いた。
「僕は、自己治癒が常人より遥かに早いんだ。だから、ほら」
服を捲り、夥しい殴打痕が徐々に薄まっていくのを見て、少女は息を詰まらせる。
それを見て、レインは苦笑した。
「怪我をしても、暫く経てばこうやって治る……僕がバケモノと呼ばれる所以の1つだよ」
「そんな……でも、貴方は」
「僕は、バケモノで良いんだ。治癒術は要らない、魔物のみんなと仲良く出来る……母さんが産んでくれたことで、僕は人間が味方に居なくても寂しくない」
そう答えるレインの腕に子ウルフがもぞりと入り、少女を威嚇するように喉を鳴らす。
魔物たちからすれば、少女は敵である。
畏怖の対象である魔女が傍に居ることも、レインの母ティアナが死にこの魔女が居ることも、全てレインの敵であると魔物たちは認識していた。
「あ……そうだ、ねぇ。教えて欲しいんだ」
「え、あ……私、ですか?」
少女は怯えながら自分に指差すと、レインは頷く。
「うん。君は……母さんの場所がわかったなら……他の、三大魔女の居場所も、わかるの?」
「え……三大魔女、です、か……?」
世界に影響を及ぼし過ぎる三大魔女は、各地方に散らばり世に出て来ず細々と暮らしている。
例えばティアナもこの山奥の誰も足を運ばないシーブに身を寄せていたのは、世間と隔離していた。
他の三大魔女もそうなのだと聞いていたレインは、ティアナの居場所を知り得た少女に尋ねたのだ。
「あの……どう、して?」
「うん……母さんの友達だって聞いた三大魔女なら……僕の父さんのこと、知ってるかな、って……」
「貴方の、お父さん……?」
「僕には、もう父さんしか居ない」
母の遺言。
レインはまだ見ぬ父へ託される、と言うことは、頼っても良いのか。
「僕は……これから、父さんを探そうと思うんだ」
母を亡くし、故郷を追い出されたレインには他にやることが見当たらなかった。
だから、一目だけでも会ってみたい父を探そうと考えたのだ。
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