崩壊した日

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帰還したブライドは、国王に謁見するまで時間があることに気付き、剣の柄を撫でた。 「(よもや、ああも簡単にあの最強の魔女を討ち取ることが出来たとは)」 剣がカチャリ、と音を立てる。 今回の煉獄の魔女討伐の任により国王から授かった、この『魔女殺しの剣』と呼ばれる剣のお陰は勿論あるのだろう。 半信半疑だったが、一撃で仕留めたところを見れば、名通りの武器だった、とブライドは確信した。が。 それだけでは無かった。 「(運が良かったとしか思えん)」 いくら一撃で仕留めれる武器を持っていても、あの魔女に近付くこと、ましてや隙を付けると思えなかった。 そこでブライドは人知れず口角を持ち上げる。 「(そう、全てはあの子供の存在がプラスに働いた)」 魔女の息子と言うイレギュラーな存在、それが現れてから魔女が油断した。 つまり、"アレ"が居なければこちらは無事ではなく、最悪返り討ちにあっていただろう。 「ブライド、何か良いことがあったのか?」 「!」 思考に浸っているといつの間にか、支柱に背を預けながら壮年の男が天井を見上げている。 気配が読めなかったその青髪の男に、ブライドは気を引き締めた。 「……国王様からの任を無事果たせたことに、安堵していたところでありますが」 「煉獄の魔女の討伐、の任か」 男は支柱から体を起こし、ブライドへ視線を送る。 何を考えているかわからない目で男はフッと表情を崩し、目を閉じた。 「……鉄槌と祝福が、今頃嘆いているのが目に浮かぶな」 それだけを言い残し、男は青髪を掻きながらブライドの前から去って行く。 「……本来なら団長である貴方が任される任でありましょうに……」 騎士団長である男の背を見つめ、ブライドは背を向けた。 だが、男は団長であるが故に多忙である。それだから自分にこのような大任が来たのだと納得し、歩を進めた。 報告終えた後、他の任の間にあの子供の対応を決めて置かねばならない。 出生した謎には興味がない、もう存在してしまったのだから、それに対しての興味しかない。 「有益ならば手中に、害為すならば母親同様斬り捨てるまで」 全ては国王の為に。 ブライドは忠義を胸に、謁見へと向かったのだった。
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