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レインは少女の方へ振り返ると、肝心のことを聞くのを忘れていたことを思い出し苦笑しながら頬を掻く。
「えっと…僕はレインって言うんだけど、君の名前は?」
「え……?」
「ほら、その。これから一緒に旅をするから、いつまでも"君"とか"貴方"だったら余所余所しいかな……って思ったんだけど……名前、聞いても良いかな?」
レインの言葉にハッとなり、杖を持ってあたふたしながら「はいっ、えっと!」と言いながら頭を下げる少女。
「わ、私っ、ユー…ユティって呼んで…頂ければ」
「ユティだね、わかった。僕もレインで良いよ。ね」
「は、はい……その…………、れ、レイン……」
少女、ユティは恐る恐る呼び捨てをすればレインはやっと表情を和らげたを見、ホッと息を溢した。
そのやり取りを見ていたウルフたちは、レインの足元に擦り寄る。
「ウォンッ」
「どうしたの?」
メスのウルフは何かを銜えて、それをレインに差し出した。
レインはその銜えている物を見て、目を張る。
「それ……僕のウッドソード……持って来てくれたの?」
「クゥーン」
「……ありがとう。正直、手ぶらでどうしようって思ってたんだ」
ウルフの頭を撫で、布に納めた木製の剣を背中からかけた。
何かあった時──もし村人が母を襲った時守れるよう──に備え、硬い樹で作った愛用の剣の重みに笑みが溢れる。
本物のように斬ることは出来ないが、その分打撃としては使える。
そもそも殺傷力を求めていないレインには、これがちょうど良かった。
それからしゃがみ、ウルフたちを撫でる。
「僕は、これから父さんを探す旅に出るよ……だから、みんなとはお別れだね……」
群れなすシークウルフたちを連れ旅をすることは出来ない。
彼らには彼らの生活がある。
「今まで、僕と仲良くしてくれてありがとう。大好きだよ」
そう言い立ち上がれば、近くで見ていたユティに「行こう」と声をかけた。
「え……良いん、ですか?」
「うん……これ以上居たら、僕が離れたくなくなっちゃう、から」
「は、はい……」
歩き出すレインに遅れないよう追い掛けると、ユティの後ろでウルフたちが一斉に遠吠えを始める。
「……みんな」
レインはその遠吠えを受け表情を和らげると、そのまま前進した。
ウルフたちの、レインへの旅立ちへの激励が無駄にならないように。
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