393人が本棚に入れています
本棚に追加
山奥に住まいを構える小さな村・シーブ。
この村は余所者を警戒し、自分たちの力のみで生活を支え合いながら暮らしていた。
シーブにたどり着くまでの山中には多くの魔物たちが徘徊しており、都市圏の人間にしてみれば、"シーブ"と言う村が存在しているのもあまり知らない。
しかし、このシーブ、山奥で育てた山羊のミルクで作ったシーブチーズが特産品でかなりの絶賛なのだが、それを求める商人も少なくはないが魔物のお陰で踏みいるものはほとんどいなかった。
ただ、余所者が近寄れない理由は、魔物以外にもある。
村はずれの一角、小さな小屋が立っていた。
そこのドアから青髪の少年が外の様子を窺い、何もいないことに安堵し素早く外に出た。
「ふぅ……今日は、いい天気で良かった」
少年は幼い大きめの琥珀の瞳を和らげ、空を見上げる。
澄み渡る空気を吸い込み、吐き出した。
──空気が美味しい。
少年は嬉しくなって、ドアを再び開け中にいる人物に声を掛ける。
「母さん、今日は晴天だよ!」
「あら……それは洗濯物がよく乾くわ」
燃えるように赤い髪の女性、少年の母はその報告を聞き笑みを浮かべながら篭を持ち、少年へ渡す。
「レイン、頼めるかしら。母さん、お昼ご飯作ってるから」
「うん!」
「あ、そうだ。山菜も頼める? 今日はソテーにしましょう」
「任せて!」
母の頼みを聞き入れた少年、レインは笑みを深くするとドアを再び閉めた。
母の作る料理は絶品で、レインは大好きだった。
「ソテーか……ふふ、楽しみだなぁ」
気分を上げながら、空模様に比例してレインも陽気に洗濯物を干していく。
村へ行かないと山へ行けないのが若干憂鬱だが、母の作る昼食のことを考えると、その憂鬱さも払拭されていく気がした。
「っよし、全部干せた!」
レインは篭を井戸の近くへ置き、ドア近くにかけて置いた木で作った剣を服の内の腰布に引っ掛ける。
「行ってきまーす!」
声を掛ければ、母がドアから顔を出し優しい笑みを浮かべて手を振ってきた。
レインはそれに答え手を振り返し、村へ駆けて行ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!