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桜の開花が確認されたのはつい昨日の事。またテレビで桜開花のニュースを見て、妹がはしゃいでいたのも昨日の事である。
まだ蕾のままのソメイヨシノの木が点々と連なる通学路、さぞ呆けた顔をしているだろう俺はトボトボと並木道を歩いていた。
今日は入学式、本来なら毎年この時期は桜が満開に咲き乱れている筈なのだが、こんな大事な日に限ってこれだ。正直入学式って実感は殆どない。
全く、幸先の良くないスタートですこと。
「待ってよ~、晴明~。何で待っててくれなかったのさ」
一人感傷に浸っていたのに、喧しい奴が現れた。朝から無駄なエネルギーを使わせるなよ……。
「晴明って呼ぶなって何回言った? いい加減やめてくれよ」
「え~、だって安倍清明なんて名前、安倍晴明そっくりじゃん! それに清明は妖怪が見えるんでしょ?」
この喧しい女は幼馴染の朝倉咲良。幼稚園来の付き合いで、妖怪が見えると言っていた俺を唯一信じていた物好きだ。
「名前が似てるとか安直過ぎるだろ……第一妖怪が見えるんじゃなくて『見えていた』そこんとこ間違えるなよ。もう何年も見てないんだし」
祖父である安倍清正、じっちゃんが亡くなって以降、俺は心を閉ざしてしまった。
自分の殻に閉じ籠り、外界から意識をシャットアウトしていた俺は、気付けば妖怪は見えなくなっていて、それから奴らを目にする事は一度も無かった。それからあっという間に時は経ち、そのまま高校生になっていた。
「そこなんだよね~、清明さ、本当にもう妖怪見えないの? ただ隠してるだけなんじゃない?」
可愛いらしく小首を傾げる咲良、顔を傾ける時、セミロングで亜麻色の髪、小さく上で二つに縛った髪の毛が微かに揺れる。
そして茶色がかった両の瞳はしっかりと俺の双眼を捉えて離さない。
……そんな目で見られると居た堪れなくなるが、見えないものは仕方のないことだ。今更どうしようもない。
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