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だが、『殺人鬼(コレ)』に背を向けて?
先ほど見せつけられた恐ろしいまでの身体能力に震えが走る
逃げなければならないのは分かっていたが、それでも恐怖に動けない
蛇に睨まれた蛙とはよくいったものだ、自分で自分の弱さが嫌になる。
そういえば、と猫柳は思った
殺人鬼に襲われた日、父と母を殺されたすくみ上った己のせいで天使は死んだ
あの時自分が、すぐさま逃げられていたら、天使は死ななかったのだろうか
そんな思いをしたくなくて強くなろうと思ったのに、そんな思いをさせたくなくて、強くなったつもりだったのに
眼前の殺人鬼は相変わらず、無機質な仮面をつけた顔をぐにゃりと傾けて立っている
動いた瞬間、殺すつもりなのだろう
その時だった
「お父さん!!!!」
殺人鬼の背後でけたたましい悲鳴が上がって双方の注意がそちらに向いた
見れば幼い少女が先ほどの血の海を前に立ちすくんでいる。血の海に転がる男性の遺体に視線が落ちて、こちらのことは見えていない。
「不快」
一言、殺人鬼が明確な言葉を放った。
仮面のせいでくぐもった声は明らかに不機嫌で、猫柳に向いていたはずの殺気が少女に向かって半分ほど裂かれている。なにより、少女の叫びは幼い日の自分と重なり、恐怖にすくみ上った心に残った一抹の復讐心を揺さぶった。
それが、彼を動かした
「よそ見してんじゃねーよ!!」
ひっくり返って掠れた情けない声だが、腹から吠えれば体は後から従った。足元の空き缶を拾い上げると迷うことなくぶん投げる
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