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その様子に、ぴくりと表情を動かしたスウィンジは、己の手の甲にいるカンテラに声をかける
「カンテラ、あと少し…黒薔薇と二人で話したい
先に戻りなさい」
ぽんと手を投げるように降ると、空中に飛び上がったカンテラは再度火の蝶に姿を変えてゆっくりと旋回した
「…貴方は…根を詰めすぎ、る…気を付けて下さい…
黒、薔薇…?」
うつ向いていた黒薔薇が弾かれたように顔をあげる。
「おやすみなさい…」
伺うように声をかけて、蝶はゆっくりと廊下に向かって飛び、じきに灯も見えなくなった。
「…黒薔薇、彼とは?」
しばらくの沈黙の後、スウィンジが傍らの黒薔薇に問いかける。
黒薔薇は、人形のように美しい顔をあげて、少し震える声で話始めた
「…導師スウィンジ、名前くらいご存じでしょう。
ハヤグリーヴァに戦いを挑み処刑された精霊憑きの罪人ミクサ…
彼の生前、私は交流があったのです」
「その…罪人ミクサが?」
促すようにささやかれ、黒薔薇は話していいのか否か一瞬迷うように視線を動かす
「今のカンテラという火の精霊と、全く同じ顔をしていました」
声も同じだなんて、と言い添えて、泣きそうな顔で笑う
「しかし罪人ミクサの処刑は、ハヤグリーヴァで行われたはずでは?」
「ミクサは…処刑後、見せしめとしてその体を屠殺場のゴミ山に捨てられました…私と、ミクサの恋人はそれを拾い集め、遠く離れたルルイエの町で精霊の火を使い焼いたんです。
せめて人並みの弔いを…したくて」
耐えきれなくなった黒薔薇の瞳から、ポロポロと涙が溢れ落ちた
その様子を眺めながら、黒薔薇の話を追うようにしばらく思案してからスウィンジは口を開いた
「ルルイエには奇妙な火がありました。薪もなく、ただそこにあるだけの…火。
薪がなくとも燃える火を、地元の方々は死体を焼くのに使っていたのです」
私は現地にいったわけではないので、詳しくは知りませんが、と前置きしてからさらに続ける
「ある、老いた船頭が
『自分の祖母は、それを精霊の火と呼んでいた。
昔、精霊が自分の主を焼いたから、その嘆きが止むまで燃えるのだと話していた』
そう言ったそうです」
スウィンジを見つめる黒い瞳が見開かれ、無言で次の言葉を待っていた
「…カンテラは、その死体焼き場の火から生まれた」
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