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「……なんか今の……わたしに言ってた?」
応接間でさっきと同じように向かい合っているわたしと『密室師』。
『密室師』は人を食った笑みで答える。
「このお部屋にはワタクシと悠美様しかいませんが?」
「それはわかってるけど……ま、いっか。それで、わたしに密室の謎を解けっていうこと?」
「大方そのような認識で問題ありませんよ。ですのでまずお聞きします。悠美様はこの事件の犯行方法についてどの程度わかっていらっしゃいますか?」
わたしは正直に答える。
「全然」
「…………考えてます?」
表情は変わってないのにものすごく呆れられている気がする。
わたしは少し怒ったように言った。
「考えてるって。でも変なところが多すぎてどこから考えていったらいいのかわかんなくて」
「では、ワタクシは案内役ではございませんが、少しだけ思考のお手伝いを致しましょうか。……悠美様がおっしゃる、『変なところ』とは、具体的にはどのようなものがありますか?」
「まず、死体の首が切断されてたこと。それに切断したのにそのまま置いてあったこと。殺した後に死体に布団をかけていたこと。殺した後にペンキをぶちまけたこと。窓の上のほうの壁に一つだけ鉄線がなかった金具があったこと。何に使ったかわからない高枝切鋏。何かを埋めたらしいスコップ。とりあえず思いつくだけでもこんなにある」
「では、その中で行った理由がこの時点ですでにはっきりわかるものをお教えしましょう」
『密室師』は見下すように微笑んだ。
「犯行の手順において、現場で最後に行われたと思われるのは、ペンキです」
「思われるって、あなたがやったんでしょ?」
思わずそう言ったが、『密室師』は簡単にあしらう。
「これは推理ですから。ワタクシの体験はひとまずなかったこととします。その上で他者としての視点から推理を。……ペンキが最後であることは明白です。部屋の中のほぼすべてのものがペンキをかぶっていたのですからね」
言葉に誘導されるように部屋の様子を思い起こす。流されている気もする。
「床、壁、カーペット、ベッドの上の布団もそうだったし、お父さんの頭にもかかってた。確かに、最後じゃないとおかしいね」
「ならば、このペンキは証拠隠滅のための手段であったと考えられます」
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