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夏の日差しが降り注ぎ、水田がそれを反射して、まだ小さな緑の苗がゆらゆらと風に揺れる。
そんな麓より少し上に建つ、厳かな空気を醸す大きなお屋敷ーー杜家には、五年前に新たな命が加わった。
その子は産まれた時こそ命の危険があったが、その後はすくすくと育ち、普通の子供となんら変わりなく過ごしていた。
ーーある一点を除いては。
「陽凪ちゃーん! あそぼー!」
「おはよーございまーす!」
杜家の大きな門の前に可愛らしい、小さな女の子が二人立っていた。
一人は前髪をあげて上で結び、藤色の着物を着ていて、もう一人はおかっぱ頭で、赤い着物を着ていた。
みると、おかっぱの少女の手には小綺麗な鞠が抱えられていた。
「しゅきゅー! 開けてー!」
門の内側から元気な声が聞こえると、大きな門は静かに口を開けた。
門の間から姿を現した少女は前髪を眉の高さで真ん中に寄せ、髪は短く、山吹色の着物を着ていた。
この少女が杜家の一人娘、陽凪である。
「おはよー! 今日はどこで遊ぶの?」
「あっちの林!」
陽凪はそれを聞くと門の上を見ながら、言った。
「しゅきゅー、あっちの林まで行くけど来る?」
陽凪は何もいないように見える門の上を見たまま何度か頷くと、満足そうな笑顔をみせ、林へと歩き出した。
おかっぱの少女は陽凪の隣に並ぶと、不思議そうに尋ねた。
「ねえ、陽凪ちゃん」
「なに?」
三人の少女は杜家から見て、北側にある林への道をちょこちょこと可愛らしい足取りで歩いていた。
彼女たちの足下では、風に揺られた緑がさわさわと心地のいい音を奏でていた。
「やっぱり、なんか見えてるの?」
「うん! 今もわたしたちの後ろについてきてくれてるよ!」
陽凪がにかっと元気に笑うと、二人は目を輝かせて感嘆の息を吐いた。
杜陽凪、この少女は普通の人とは少し違い、通常は見えないもの、昔から"妖怪"や"霊"などと呼ばれるものが見えるのだ。
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