杜氏

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文政五年。 徳川家が統治し始めて200年が過ぎようとしていた。 そんな日本のとある藩ーー岩村田藩には"杜"の一家が住んでいた。 杜氏の当主は実に人が良く、農民でも困っている者があれば米をくれてやったり、女中など使用人の負担を少しでも軽くしようと、身の回りのことは自分でやったりというふうだった。 そのため、周りからはもちろん、藩主の内藤氏からもあつい信頼を寄せられていた。 だが、そんな杜氏には不思議な噂があった。 『杜家は妖に守護されている。』 この噂の真偽を当主に問い質す者もあったが、決まって「私にはわからん」とはぐらかされるのがおちであった。 そのうち、杜家に新しい命が誕生した。 そして、その子には 『妖が見える。』 という噂がたったのだ。 事実、その子は空を見上げながら何かと話したり、笑ったり、怒ったり、時には泣いていることもあった。 妖は単なる噂なのか? それとも、本当にいるのか? 妖しいけれど、可笑しなお話の始まり、始まり。
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