2人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝、留置所で彼女のことを考えていると、警察が思わしくない表情で俺に、こんなことを言ってきた。
「お前が、昨日、殴り倒した相手だが、先程、亡くなったそうだ」
つまり、俺は傷害致死容疑で送検されることになるのか。確かに、俺と彼女の未来。その予行練習に巻き込まれ死んでしまった通行人には申し訳ないことをしてしまった。だが、今更、後悔したところで、どうしようもないのも事実だ。
「それは、申し訳ないことをしました。亡くなられた方の分も、俺は彼女と幸せになります」
俺の返答に、警察はきっと、ギョッとしたことだろう。人を一人、死なせておいて、彼女と幸せとは。とても、正気な答えとは思えなかっただろう。しかし、俺は至って正気だ。亡くなられた方には申し訳なく思っているし、その代償となった俺と彼女の関係。それを、成立させることこそが、最大の供養になると思っての発言だ。
俺のことが、おかしいと思ったのか、医者がやってきて俺のことを詳しく調べたりした。薬物や精神。様々な点で異常がないが、調べられた。だが、残念なことに、幾ら調べたところで異変を見つけられる訳がない。俺は、ただ幸せな気分に浸っているだけなのだから。確かに、端からみれば、中毒症状のように思われても仕方がないのかもしれない。
今後、俺は裁判所に連れていかれることになるだろう。出来ることなら、一日でも早く、そうして欲しいと思う。ただ、弁護人がつくと少し厄介だな。俺が精神異常だと主張して、無罪にしようとするのかもしれない。あれだけ、派手に町で暴れたからな。有罪にしろ、無罪にしろ、弁護人にとってはいいPRになることだろう。
正直なところ、面倒な裁判などやめてほしい。早いところ、有罪にして、俺を刑務所に送ってほしい。そうすれば、俺は晴れて彼女と一緒になれる。彼女と同じ、刑務所に入り、生活を共にできる。食事や仕事の心配だってしなくもいい。刑務所が全て、整えてくれるのだから。
新婚生活もこれで、安泰だ。何から何まで揃った、幸せなど他にあるだろうか。
俺は、本当に幸せで、今にも空にでも昇っていきそうな気分だ。
最初のコメントを投稿しよう!