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道行く人達は驚き、俺の方を不思議そうに見てきた。きっと、今の俺は他人からは変な目で見られていることだろう。けれど、それでも構わなかった。今は本当に幸せなのだから。だが、今の嬉しさと高まる気持ちは、叫んだぐらいで表現はできない。気分は高まり、もっと刺激的な表現をしたかった。
俺は近くにあった、バス停の標識を掴み、それを引き摺り、ショーウィンドーのガラスを破り、中に飾ってあった宝石や貴金属を取り出すと、それを周囲にばらまき始めた。街灯で照らされ、煌めく色とりどり宝石や貴金属は俺と彼女を祝福するライスシャワーだ。
俺はバス停の標識を彼女に見立て踊った。ここが、歩道であることも忘れて。いずれ、彼女とはこうして、踊る予定だ。今日は、その予行練習だ。
ここは、二人のダンス会場。
車の騒音やクラクションは二人の為のオーケストラ。
人々は、二人に拍手喝采をおくる観客。
俺はバス停の標識を激しく振り回して踊った。その内に、標識の土台が近くで興味本位で撮影していた通行人の頭に命中した。通行人は、頭から血を流して路面へと倒れた。
誰かの悲鳴が聞こえた。辺りは一気にパニックと化した。
これだけの騒ぎが起これば、すぐに警察が駆けつけてきて、俺は取り押さえられた。
倒れた通行人は誰かが呼んだのか、駆けつけた救急車で運ばれた。
俺は顔をニヤつかせたままの状態で、パトカーで警察署へと連行された。そこで、俺は警察による、厳しい取り調べを受けることになる。彼らは俺に向けて怒声を浴びせてきたが、そんなの今の俺には一切、関係のないことだ。嬉しさの前に、どんな怒声も罵声も意味をなさない。
数時間に渡る取り調べも、上手くいかず、やがて警察の方がねをあげてしまい、その日の取り調べは呆気なく終わった。俺はもちろん、留置所へと押し込まれたが、別に構わなかった。幸福という言葉の前では、どんな場所でも幸せの色で塗り替えられるものだ。もっとも、留置所に入れられても、ニヤけている俺のことを周囲の囚人達ば不気味に思っていたようだが。
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