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私は持ち上げた箸を下ろすと、目の前に同じく冷麺もどきを啜る老人、いや祖父に再度同じ単語を使って疑問を発した。
「東京が、なんなんよ」
「うん。今週末から一週間程、向こうに行ってくれへん?」
「無理」
叩き付けるように私は即答し、箸を動かして素麺を啜った。
「……もうちょい、考えてくれてもええやん」
「無理なもんは無理。明日からまた講習あるし」
「ぐ、げっほ!な…なんやとっ?!聞いて、ごほ……聞いてへんで!わしは、お前のじーちゃんやのに!」
驚きのあまり思いっきりむせた祖父・水遇源助(スイグウゲンスケ)は、箸を握り締めていかめしい顔つきでいきり立つ。
しかしすぐに、喉にまだ違和感があるのか、しきりに咳き込むとグラスに入った麦茶を勢い良く呷った。
その様を見つつ、私は軽く溜息をつく。
祖父の言いたい台詞が何なのか、なんとなく想像がつく。全てでなくとも、私の考えや行動は把握したいのだろう。
普段でこそ陽気な好々爺だが、祖父は親馬鹿ならぬじじ馬鹿な一面がある。私が初孫だから、無理もないのかもしれない。
無論、それだけではないのだろうが。
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