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とはいえ、人の話を忘れるのは頂けない。 呼吸が整うのを見計らい、私は祖父から見て後方の壁にかけられた、月替わりカレンダーを指差した。 「終業式の日にゆーたやん。カレンダーに書いてるやろ」 「なんやと!んなあほなっ」 薄い紺色の地に黒のストライプが入った和服の裾を翻し、祖父はカレンダーを見にいく。数拍せぬうちに、彼はカレンダーに額をつけてうなだれた。 そして、なぜか「その手があったか」という謎の呟きが聞こえた。 「あら、帰りは遅いのん?」 と、柔らかく口を挟んだのは祖母・水遇佐恵乃(スイグウサエノ)だ。 彼女を一言で語るなら、京女だ。出身は京都どころか、関西ですらないのだが。 一つにまとめた黒髪は六十を過ぎた今でも艶やかで、淡い水色の和服にもよく映えている。 雰囲気はもちろん、物柔らかな言動は、「はんなり」という言葉を見事に表していて、現代社会ではそろそろ絶滅の危機にあるだろうお人である。 上はキャミソールとカーディガン、下はハーフパンツ、ストレートでセミロングの黒髪をヘアクリップ一つで無造作に留めただけの私とは大きく違う。
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