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ひとりで残業に勤しむ、世利ユナは、高い位置にあるひとつきりの電波時計に目をやった。
時刻は正確に刻まれているはずだが、暗くてよく見えなかった。
「帰りたーい…」
前年度のひどい赤字からくる経費削減のため、自分のパソコンとデスクスタンドしか明かりのない暗い社内に、ふと足音が近づいてきた。
「まだ誰がいるのか」
声は朝礼で知っている、笛知という若い男だ。役職は確か…専務だったはず。
「いまーす」
庶民には関係ないわ、とユナは投げやりに手をあげ、机に伏せた。
「お前か、高校から拐われてきた変な娘。名前は?」
「変って何ですか…、普通の世利ユナです」
「私は笛知だ。吾留守の町内会長もやっている」
そんなことは訊いてないよ…、とは思ったが口にはせずに立ち上がる。それでも顔を見上げなければ届かない、かなりの長身だ。
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