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「ひどい…」
ユナは、駐車場の明かりに浮かぶばらばらに崩された櫓を見た。
「これは…開催日を延ばしたほうがいいかもですねえ」
蘭座が言い捨てる。
悔しい顔さえ見せず、笛知は木材を持ち上げた。どうしたってこんな悲惨なものを、三人で組み上げることはできないのに。
ユナは笛知の底知れないやるせなさを見た。
町内会長。それは想像よりはるかな重圧なのに、彼はもう先を見ている。
不意に、笛知の視線がこちらに向けられた。
「世利」
「…はい」
「これがうちと伊座江良町の現状だ」
ガラン、と木材を転がした。
その音は、なぜか胸を騒がせ、静寂に溶けていく。
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