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「ちょっ、姐さん置いてくとか勘弁して下さいよ!」
若く見えるが二十代の後半か、三十歳になった位の男が船員に押さえ付けられながら喚く。
「何捕まってんのよ、ばーかばーか」
引き取りに来たはずが何故か挑発する、人の精神構造って不思議。
「お嬢ちゃん、こいつと知り合い? 乗船券持ってないんだけど」
――そりゃそうでしょ、あたしが握ってるもの。
「あー、どうだったかなー」
余りにわざとらしい素振りに船員は苛立ち、シオンは泣いた。おしおは苦笑いし、彼女はにやにやする。
「ほんとないっすよソレ! ぶっちゃけあり得ない反応やめるっす!」
「荷物はー?」
「俺が持つっす!」
「夜番はー?」
「俺がやるっす!」
「えーと、あとは……」
船員が呆れるくらいのやり取りを見て、ため息をついたおしおがやってきた。
「申し訳ありません、私の連れでして。チケットはこちらに」
隣に立って黙って微笑むおしおに負けた彼女が、ポケットから紙を取り出し渡した。それを片手におしおがタラップを登る。
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