238人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
すっかり辺りも暗くなり街に帰るかどうかの選択を迫られる。おまけが着いてきたので宿にとはならないし、マーラル市そのものへ行くわけにも。
――さっさと脱走しなさいよ、だから思い切りが悪い男は嫌ね。
珍しく輪番で夜営をすることに決めた。初回の見張りはシオンで、仏頂面の兵を睨みっぱなしで見張っていた。次がフラウで殆んど監視らしきこともせずに焚き火を突っついている。
捕虜にしてみれば騎馬の手練れや戦士よりもあきらかに小娘が狙い目である。ここで行動を起こさねば逃げる気がないと判断して良いだろう。
「なあ」
初めて口を開く。だが小さな声であった。
「なによ」
「ちょっと小便だ、こいつを外してくれないか」
後ろ手にしてある縄を外せと身をよじる。我慢しろとも言えず「片方だけは外さないわよ」等と警戒してる感をアピールしてみたりして。
「ああただの便所だ」
大人しく従うふりをして背を向けた。片手だけを外して少し離れて紐の端を握る。この時点で逃げてくれと言っているようなものだ。
最初のコメントを投稿しよう!