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「!?」
全てを消し去る光。それはどういった理屈でか、彼女の全身を包み周囲の物質を吸収するように分解していく。まるでブラックホール。だがその引き寄せる……引力のような力はそれ程強くはない。
これは本当に攻撃なのだろうかと疑問に思うほどの微弱な力。せいぜい吸い寄せたとしても5、6キロ程度の物くらいだ。僅かな物質と大気を吸収する度にその光は濃く、眩いものになっていく。
「……」
息を呑む鬼男。きっと、彼の両足は既に動く筈だ。だが目の前の神々しいまでの……柔らかな絶望の光は、彼の荒んだ瞳を魅了し、言葉さえも奪った。そして俺もまた、その光に魅了されていた。
ふっ、と身体の痛みが和らいでいく。鬼男も同様。見ればその表情には苦悶や恐怖の色は感じられず、何とも穏やかな面持ちに変わっていた。
彼女の慈悲か、恐怖も痛みも与えず、ただただ安らぎだけが彼を包む。
「……おやすみ」
「!」
囁くような声。それと共に、閃光が走り、彼女と鬼男の周りを囲むように光が円を作った。アメジストに輝く光輪は内と外を完全に隔て、中で何が起きているのか俺にはまるでわからない。
ただ一つ、言えるのは。
「す……げ……」
地の底から天へと突き出した細い一本の光の柱の中で、鬼男が静かに息を引き取り召されたという事だ。
光輪から天へと伸びる光の柱。目視で確認できるだけでも高さ1000mはあるであろうそれは、天から降り注ぐスポットライトのようにも、レーザー光線のようにも見えた。いったいどれほどの高さがあるのか。雲を貫き、夜空の闇に落ちたような淡いアメジストの光はどこまでも、どこまでも続いていた。
「……ごほっ、けふっ」
浅くなった吐息に混じってどす黒い血液が咳と共に零れた。激痛で熱を帯びていた身体は冷め切り、この身を極寒零度のような寒さが襲う。血液を流しすぎた。
今まで意識を失わずにいられた方が不思議なくらいなのだ。タイムリミットは当に過ぎている。
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