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次第に意識は朦朧とし、気を抜けば意識が飛びそうになる。ごぽごぽと血を吐きながら辛うじて呼吸をしているがこのままではそう長くは保たないだろう。
大男はその場にかがみ込んでさも愉しげな表情で俺に語りかけた。
「どうだ坊主。死の淵に立ってみた感想は?」
ヤケに尖った犬歯のような歯をちらつかせてニタニタと笑う大男。それに対して俺は「悪くない」と返した。
そりゃあ良かった。口ずさむと同時に、スッと男の指が俺の胸に伸びてゆき。
「ぐくっ!?」
飛び出た肋骨の一本を強く強く握りしめた。
激痛は焼けるような熱を帯び、血肉を焦がすように骨から滲み出る。骨を直接握られるなんて経験は当然なく、絶叫のかわりに低い呻きが喉に溜まった血液を振動させながら零れた。
「いい顔だ。我慢せずに涙を流せ。呻き悶えろ」
挑発的な男の嘲り笑う声はフレディーさながら、まさしく悪夢その物のようだった。
強烈な激痛に意識を失いかけると、奴は見計らったように肋骨を握る力を強めたり、緩めたり、またこね回す。それを数回繰り返した後、ようやく手を離してまた笑い始めた。
なんなんだよ。なんなんだよいったい?
つい先程まで傘を片手に海を眺めていたのに、その5分後にはもう死ぬ寸前。
死はとても唐突で絡みつくようにこの身を掴んで離さない。
こんな時間に、こんな所に来なければ。こんな目には遭わなかったのだろうか?
今更そんな事を思っても時間を巻き戻す事などできはしない。しかし俺は自ら死を受け入れる程穏やかではなかった。
助かりたい。生きていたい。
生への強い執着心が男の手を振り解き、ボロ雑巾のようになった身体を立ち上がらせた。
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