プロローグ

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「もう少し……待ってて」  少女は首に巻いた薄汚れた灰色のスカーフに仕込んだ通信用のマイクで報告を終えると呟くように言った。  助けてくれるのか?  彼女は無表情のまま俺の虚ろな瞳を見つめ「ついでだから」そう冷たく言い放った。 「セリザワァアアァア!!」  響き渡る怒声。夕日のようなオレンジ色の光を放ちながら倉庫から這い出てくる鬼男。衣服は自らの体温で燃えさり、屈強な鋼の肉体が露わになった。  セリザワ。彼女の名だろうか? 少女はさも呆れた顔でため息をつき、奴を仄暗い瞳で見据えた。 「どこまで堕ちれば気が済むの? 木島」 「黙レェ!!」  彼女の姿を目にして怒り狂い、更に体温を上昇させる。恐らく地球上で最も熱量を持つ生命体だろう。しかし、そんな化け物を前にしても彼女の顔色に動揺や恐怖は微塵もなく、むしろ涼しげにさえ見えた。 「そんな姿になってしまったのには同情する……けどアナタはやり過ぎた」  燃え盛る鬼男を目の前に、彼女は拳を握り締めて構えをとる。よく見ればその手の甲にはなにやら鉱物のような物質が埋め込まれていた。  黒紫の光を僅かに発するそれはダイヤのように美しく、見つめ続ければ深い闇に引きずり込まれそうな錯覚さえ覚える。 「キメラ及び、その肉体の私物化行為。度重なる一般市民の捕食、殺害。契約記述に違反するとしてアナタを処分する」  長く伸びた前髪が風に揺れて鋭い眼光が対峙する鬼男を完全に捉えた時。 彼女の姿を深い霧が覆った。
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