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「ガッ!?」
まるでポルターガイスト。
見えない強烈な力で殴られた鬼男の顔面が大きく歪み、更に腹部を貫くような勢いで何かが彼の身体をくの字に曲げ吹き飛ばす。
不可視ではあるが何となく姿を消した少女の動きが読み取れた。
姿と気配を消し、突如として襲い掛かった右フック。その勢いを利用して間髪入れずに左ストレート。姿が見えない上、その威力は計り知れない。常人ならばかすっただけでも骨折は免れないだろう。
ジリジリと電流が空虚を走り、彼女の姿が現れた。
「……同期の誼。せめて、楽に逝かせてあげる」
むせかえるように口から火の粉を吐き、必死に立ち上がろうとする鬼男。しかし思いのほかダメージが深刻なのか、奴の足はガクガクと震えて動かす事さえままならなかった。
彼女の濡れた華奢な身体がゆっくりと左手を地べたで悶える鬼男にかざす。その白く細いしなやかな指先を見て彼の身体は小刻みに震えだし、目は見開かれ、その黒一色の瞳は恐怖に怯えていた。
「ょ、よせ!? ヤメロ!!」
ぼうっ、と。手の甲に埋め込まれていた鉱物が淡い光を放ち、その薄紫色の光が彼女の白い手を染めていく。その淡い光は一見、穏やかで暖かな印象を与えたが次の瞬間、それは禍々しい脅威へと変わった。
「ぁああ゛ぁあぁああ゛あ」
鬼男の額から突起した角が光に照らされると共に、その表面が見る見るうちに分解され消えていく。細かい細かいパズルのピースの結合が解けたように、散り散りになった角の粒子は夜の闇に消えていった。
熱なんていう生易しい物ではない。触れる物全てを分解し消し去る。ミサイルや核なんかよりも強力な兵器だ。
「大人しくして……すぐ終わる」
バタバタと両腕を振り回し抵抗する鬼男。しかしその腕さえも光によって消し去られてしまう。吹き出すマグマのような血潮。それも彼女には届かず、光が塵へと変えていった。
「あぁ、あぁあぁ! 許して! 許してくれっ!!」
醜く惨めに許しを請う彼を、彼女は哀れむような視線で見下しながらため息をついて目を伏せる。
そして静かに呟いた。
「その言葉。もっと早く聞きたかった」
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