プロローグ

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 舗装された道を馬車が、一台のんびりと揺られながら走っていた。地平線を見渡せる砂漠に一本だけ伸びる、灰色の道。殺風景な眺めである。乗合い馬車だ。白いホロが照りつける陽を遮っている。丁度、昼になる頃だろうか。  放歌的な旅を続ける旅人は、ポツリと漏らした。 「もうすぐか、懐かしいな──」  車輪の音にかき消されそうな呟きだった。旅人は今まで大陸を根無し草でまわってきた。成人する前から世界を見ようと、エルディンを旅立ち、そして十年以上ぶりに帰郷しようと哀愁を抱いていた。乗合い馬車に乗り込み、故郷を脳裏に浮かべていた。旅人は三十手前に見える。整った顔立ちだが口の周りにヒゲを伸ばし、黄土色のマントを羽織っていた。 「あなたは、アトラスの出身なのですか?」  その呟きを拾って、旅人と同乗していた商人風の男が聞き返してきた。 「そうです。最も僕の故郷は旅立った頃は、まだエルディンと呼ばれていました」  旅人はハッキリとした口調で答える。 「エルディン──かつてあの街はそう呼ばれていましたね」  商人は旅人より一回り年齢が高そうに見えた。
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