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そのイタズラを仕掛けるには数日かかるそうなので、僕たちは店を後にした。
しかし、結構高かったけど、大丈夫だろうか。
僕のバイトの給料なんて知れてるし、樹だって同じバイト先で同じ時間働いてるんだから、僕と収入は変わらないはずだ。明らかに僕の方が出した金額が少なかったけど…。
「大丈夫。余裕ですよ」
樹はやけに余裕だ。何か別に収入があるのか?
そういえば、パソコンをよくいじくってる。何か関係あるのかな。
「巴、危ないですよ」
ぼんやり歩いていたら、段差につまづいた。でも、転ぶ前に樹がちゃんと支えてくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
微笑んだ顔を見て、愛しさを再認識した。
「どうかしましたか?」
「…好きだよ」
「ん?」
「何でもない」
樹は首をかしげていたけど、それは無視してクレセントに向かった。
カフェ クレセントは、龍司さんが単さんとやっている店で、僕たちはそこでバイトをしている。あまり広くはないけど、いつも混んでるんだ。
コックは龍司さん。単さんは接客と、夜はピアノを弾く。樹も接客で、僕は皿洗い。
他にも、朔夜さんとエミールさんというスタッフがいる。
朔夜さんは、単さんの世話役だったらしい人で、ギャルソンをしている。エミールさんはフランス人で、樹がフランスにいた時の教育係だったそうな。エミールさんはケーキが作れるので厨房。
僕と龍司さんは庶民だけど、樹と単さんは坊っちゃんなのだ。
それはともかくとして、働かないと。
僕はいつものコックコートに着替え、樹は黒ベストに蝶ネクタイ、腰巻きエプロンのギャルソン姿に着替えた。
樹はその後、少々変装をする。
学校に着けて行ってる、茶色のカラコンを外した樹の目の色は青。フランス人のお母さん譲りだそうだ。後は、少し長めの髪を整えて、「遼」が完成する。
樹はバイト中、遼と名乗っているのだ。
「ホラ、仕事するぞ」
言葉遣いも変わる。
絶望的に不器用な樹は案外、こんな所は器用なのだ。
そうして僕たちは、クレセントという戦場に飛び込んだ。
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