斜向かい

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「行ってきます」 毎朝同じ。ローファーを履き、ドアノブに手をかけながらキッチンにいる母への合図。 「ハンカチ、ティッシュ、鍵、携帯、財布、定期、時計、…」 キッチンからはまるで呪文のような名詞のみの羅列。 母はこれを父にもしている。 「うん、持ってる。大丈夫」 うざったいと思ったこともある。正直に言えば。でもないと困ったりもする。 ひょこっと母は顔を出し、 「りぼんは?」 最後の確認。 「ポケット。行きながら付けるよ」 「いってらっしゃい、亜季」 「行ってきます」 このやりとりで、学校に行くって感じがする。 扉を開け、飛び込む光に思わず目を細める。 実はまだ慣れない。 高校に入学して5日。 春休みをほとんど引き篭もって過ごしたせいか、太陽に弱くなった気がする。 けれど夏の日差しでもないこの時期はマシだ。すぐに慣れる。
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