家族

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ローレルは運んできてもらった小さな台に飛び乗ると、作業台に広がる甘い世界にさらに瞳を輝かせる。そして、初めてする料理の手伝いに大いに興奮していた。もう既に、絵本を読んでもらいたいという、本来の目的は忘れさっている。 楽しそうに生地を型抜きし、クッキーは鉄板の上に並べられていく。そして、次々とオーブンの中え入れられ焼かれていく。しばらくすると、香ばしく甘い匂いが広がってる。ローレルはオーブンの前に立ち、待ち遠しそうに中を覗いている。 このオーブンは結構な大きさだ。広いオーブン内には、溢れんばかりの大量のクッキーが焼かれている。 当初は城の料理人たちが、魔王一家のためにケーキを作ろうとしていた。だが、そこに偶然来たキルシェと彼女の従者が加わった。少し手伝うくらいのつもりだったが、その過程でケーキはクッキーに変わり、「紅茶風味も良いわね」やら「チョコも美味しいですよね」など、各々が好みの味を言い出し収集がつかなくなったのだ。 結果、アイデアの分だけ量が増え、この大きなオーブンにも入りきらず、二度に分けて焼くはめになった。ローレルを誘った香りは、一度目に焼かれたものだ。 全てのクッキーが焼き上がると、甘い香りはさらに広がる。 あら熱を取っている最中、ローレルは何度かクッキーに手を伸ばしそうになっていた。その度に頭を振り、ぐっと我慢をしていた。 キルシェはといえば、お茶の時間の頃合いを見計らい、お茶用のお湯を沸かし、キッチンワゴンにティーカップや砂糖、ミルクを用意していった。そして、冷めたクッキーを適当に皿に盛りつけ、ローレルと一緒に城の裏にある庭園へと向かった。
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