家族

8/11
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
庭園は昔と変わらず、様々な花が綺麗に咲き誇っている。キルシェはその庭に、二人の姿があることを確認すると声をかけた。 「ザカート、ディア。お茶にしましょう」 花のなかに見え隠れしていた二つの影が、名を呼ばれ姿を現す。 一人は、昔と全く変わらない姿のザカート。もう一人は、キルシェによく似た少し気の強そうな十五、六歳の少女。 二人は傍にあった台の上にハサミを置き手袋を外すと、キルシェたちのいるテーブルに向かった。 「うわー。美味しそうな、クッキー」 ディアが席に着き、おしぼりで手を拭くなり手を伸ばし、一枚取り頬張ると「うん」と、ご満悦の表情を浮かべた。 「おとうさま、おねえさま! このクッキー、ぼくが作ったんだよ」 ローレルは自慢げに、クッキーをのせた皿をザカートに差し出す。 「そうなのか。では、いただこうかな」 そう言い、皿から一枚取り口に運んだ。 ローレルはザカートの食べる姿をじっと見つめ、様子を窺っている。 「うん、旨いな」 パアッとローレルが表情を輝かせる。ザカートに頭を撫でられ、ローレルははにかみながら嬉しそうにしていた。 「ローレルは料理が好きなのか?」 「うーん。わかんないけど、すっごく楽しかったよ」 「そうか、楽しかったか」 「ふふっ、今度はケーキを焼くのよね」 「うん! あまーいイチゴがいっぱいのったケーキを作るんだぁ」 「それは、楽しみだな」
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!