騎士

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そんな祝福に満ちた街に、一人の男が立っている。 背が高く、広い肩幅という特徴から、かろうじて男だと判断はできる。しかし、男は黒いローブを目深に被っており、その下にある表情や年齢までは窺い知ることはできなかった。 男は何をするわけでもなく、ただ街の一角に立ち止まっている。その出で立ちも相俟って、彼の存在は街の賑わいには不釣り合いで、異質なもののように映る。 だが、街の人たちは、時おり訝しげに男の姿を見るだけで、大体の人間は特に気にする素振りも見せなかった。おそらく異質な男の存在なんかよりも、今を楽しむことを優先しているだろう。 しばらく街に溶け込むように動かなかった男が、不意に動き始める。 どこに向かっているかは分からないが、ゆっくりゆっくりと静かに歩き始めた。黒いローブが歩みに合わせ揺れ、その姿は深い闇を連れた禍々しいものにも見えた。 男は歩く速度も変えず、そのまま人混みのなかへと消えていった。
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