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ボウ然と「指」を見つめたまま、もう2時間は経っただろう。神野
に理由などわかるはずもなかった。ただ本能的に、
「隠さないと犯人にされる!」
そう思った。
考えたあげく、庭に埋めることにした。神野の部屋は一階で、小さな庭がついている。外で張り込んでいる刑事に気づかれないように、
穴を掘ってビンに埋めた。
部屋に戻り、もう一度よく考えた。
(イタズラにしては、残酷すぎる)
神野は人に恨まれるようなタイプではなかった。考えれば考えるほ
どわからなくなるだけだった。やがて、日が昇り、夜が明けた。結
局、一睡もできずに、出社するはめになった。
神野は会社に着くとすぐメールを調べ始めた。メールはたしかに自
分が送ったことになっている。念のため、ほかにも自分が送受信者にな
っているメールがないかを調べた。
一時間ほど経ったとき、神野の指が止まった。
(あった!)
震える手で開けてみた。件名には、あのメールと同じように
「down」と書かれている。そして本文には、「耳」という一文字が!「耳! いったい誰が」
神野の額に、大粒の汗が吹き出した。メールの送り先は友人の菊地
だった。そのとき、内線が鳴った。
「神野さんに警察の方がおみえです」
ロビーにかけ下りると、本田警部が待ち構えていた。
「今度は耳がなくなりました! また、あなたの友人です」
「やはり・・・・・・メールが・・・・・・」
と神野は心の中でつぶやいた。
本田警部はくわしい状況を話し始めた。
昨夜のこと。菊地が部屋で酒を飲んでいると携帯にメールが入った
という。画面を見ると「耳」の文字が、くだらない冗談かと、そのま
ま 寝入った菊地が朝起きて何気なく耳に触れると・・・・・・耳がきれいに削
がれてなくなっていたのだ。
「激しいショックで病院に入ってます。梨花さんと同じです」
「・・・・・」
「神野さん、送信者は・・・・・・」
「私・・・・・・のようです」
神野は、力なく答えた。もう考える力さえ失っていた。追い討ちを
かけるように警部が言った。
「署まで来ていただけませんか? 部屋も調べさせていただきたい
のですが、よろしいですね」
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