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最近、妻はこんなことを富子に言ったという。
「あの方が亡くなったら、この薔薇の下に埋めてさしあげるの。永遠に愛でてさしあげる為に。…わたくしが亡くなったら、あの方の隣に埋めて下さい。そして、一輪だけ真っ白な薔薇を植えて下さいね。娘達がいつまでもわたくしとあの方を忘れないように…」
そう語る彼女は、在りし日の「薔薇夫人」と讃えられた気高く美しい笑みを浮かべていたという。
そして、一筋だけ真珠のような涙を溢したという。
薔薇を愛した彼女…。その彼女を愛した僕は薔薇の下に眠る。
もうすぐ、僕は逝くだろう。彼女が好む薔薇の花びらのような血を吐いて…。
静かに目を瞑ると、どこからか薔薇の香りが漂ってきた。
「貴方…」
この声……僕は目を瞑ったまま微笑み、薔薇の棘の冷たくチクリとした感触を喉元に感じる。
ああ…最期に………。
「アイシテイルトツタエタカッタ」
《完》
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