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包丁を向けた先で、父は驚いた顔をしたように見えました。
しかしそれは一瞬のことで、次の瞬間、父は私の手を押さえつけ、もう片方の手で私の髪を掴みあげながらのし掛かり――、あろうことか、幼い頃のように罵声を浴びせ掛けながら、何度も何度も私の身体を、……腹を、殴りつけたのです。
突然両足に焼けるような痛みを感じました。鍋の中のスープをぶち撒けられたのだと思います。潰れた声で泣き叫び、私は必死に助けを呼びました。
どのくらいの時間暴力を受けていたのか、何度殴られたのか、今でも分かりません。ふいに雨宮の声が聞こえました。体にかかっていた体重がふと軽くなり、ぼやける視界の中に、雨宮が父の胸倉を掴み、殴り掛かっているのが映りました。
その人に逆らっちゃ駄目だよ、危ないよ。私は雨宮にそう言おうとしましたが、意識は急速に黒く染まり、やがて何も見えなくなりました。
次に目を開けたとき、私のお腹の中には何もいませんでした。
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