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ベッドの横の小さな椅子に座り、私の右手を握ったまま、雨宮は小さな寝息を立てていました。
いったいどのくらい眠っていたのでしょうか。起き上がろうとすると、お腹よりも両足に痛みを感じました。あの時、スープで火傷をしてしまったのでしょう。
私が身じろぎをしたことに気が付き、雨宮は目を覚まし、私の名前を呼びました。
顔を上げた雨宮の右頬は腫れ上がり、右目には眼帯をかけていました。父と殴り合いの喧嘩をしたのでしょうか。「大丈夫か?」という言葉に、私は何も言えないまま、小さく頷きました。
「ごめんね。赤ちゃん、守れなかった」
私はやっとの思いで、雨宮に謝りました。ついさっきまで感じていた小さな命の存在、そこには何も残っていませんでした。ふたりの名前から一字ずつとった、私のかわいい子供たちはもうどこにもいないのです。
「君の所為じゃないよ。俺がもう少し早く帰っていれば」
雨宮は涙を零しながら、私の手に額を付けて何度も、何度も謝りました。どうして謝っているのだろう。悪いのは全部私なのに。
私は空っぽになったお腹に手をあてて、その穴を埋めるように、子供のように涙を流し続けました。
それから数週間で退院し、私の生活は丁度元通りになりました。
一時的に危篤状態まで陥り、静一も静花もいなくなってしまいましたが、奇跡的に後遺症が残るようなダメージは無い、とお医者様から聞き、ふたりで胸を撫で下ろしたのを覚えています。
父の件は、何がどうなったのか、雨宮は一切教えてくれませんでした。ただ、もう二度と来ないように言ったから大丈夫だよ、と、私の頭を撫でてくれるだけです。でも、その言葉だけで随分と救われるような気がしました。
もう夜が明けてしまいそうです。
少し仮眠をとって、明日の仕事に備えたいと思います。
あの時友人に口止めをしておけば。あの時鍵を開けなければ。もう少し用心していれば、静一も静花も今、ここにいたのに。
今日の夢に、あの子たちは出てきてくれるでしょうか。
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