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母は、またゆっくりと歩き出した。
気の利いた言葉を探したが、見つからず、
私も母に習って、無言で歩く。
母と二人で、歩く事さえ、なんだか、照れくさかった。
「いい天気だね。
明日も晴れだって……」
言葉が見つからず
ありきたりな、天気の話をしてみた。
10分程歩くと、母が疲れて足を止める。
細い路地へと続く、十段程の石段に、
母が腰をかけた。
こんなに歩けなくなった母に
改めて驚く。
横に腰掛けて
皺のある母の手をそっと見つめた。
仕事に追われて、苛々が募り
母の話に耳もかせなかった自分が恥ずかしかった。
もう一度
ゆっくりと
やり直して行こう。
素直になれない
見栄っ張りな私…
深呼吸して
美味しい空気だね!
なんて…
そんな言葉すら口に出せない。
それでもこうして笑ってくれる母がいる。
もう一度初めから……
見上げた空には 絵でかいたみたいな
ふわふわな雲…
母に気づかれない様に
私は小さく深呼吸した。
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