この手に残るもの

Ⅱ

「今日は、スーパーに行ってね
そこで、隣の山崎さんに会ったのよ。

あの人、今一人暮らしなのかしら？」

「ゴミの日なのに、空き缶出してる人がいてね」

「昼にテレビ見てたら
あの女優さん、名前なんだったかしら？
ほら、時代劇によく出てる……」

時間に追われて
過ごす夜。

お風呂に入って、髪を乾かして
明日は忙しいから
早く会社に行かなくちゃ間に合わない。

欠伸を噛み殺し
母の話を聞く。

話がつまらない訳じゃない。

ただ、疲れてたんだ。

慣れない仕事、神経がぴりぴりで
鉛を背負ってるみたいに身体が重い。

「でね、その女優さんが……」

「お母さん、ごめんね。
お風呂入らないと、明日早いの」

母の話を遮って
立ち上がった。

食器を、あらって
洗濯機を回す。

その間にお風呂に入る。

もう、疲れてて
ぼろぼろだったんだ。