勇者と魔王

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 石畳を上りきり、広場に出れば人垣は先ほどの数倍にも膨れ上がった。 「…これ、宿迄辿り着ける気がしない…」  呆然とするレオンに、隣に立っていた中年くらいの男は残念だったなと言う。 「この祭で宿は空いてないだろうね。諦めて野宿しな。」  あからさまに顔を顰めるロゼリアを見て男は苦笑する。 「兄ちゃん達が勇者様なら話は別だろうがね。」  男はレオン達の服を眺める。紺碧の夜空のようなマントを見て勇者なわけないかと笑う。 「勇者様は噂によればもっと派手だって聞いたからな。」  それに兄ちゃん、弱そうだしなと付け加えられる。乾いた笑い声を上て後ろに控えている二人を、男から見えないように制止しながら体力には自信がないですと返すレオン。 「この祭自体が勇者様を歓迎する祭なんだ。兄ちゃん達見た所旅人みたいだが…勇者様歓迎の祭に参加したことあるか?」  その問いには静かに首を横に振る。下界なんてそうそう来ないのにあるわけがない。  そもそも俺、魔王なのに勇者歓迎なんかしねーわと内心でぼやきながら後ろの二人をみやる。 (うっわ、死んでる。顔死んでる…)  宿が無いことに対してか…はたまた勇者歓迎祭に対してかは分からないが…主にロゼリアの顔が怖いくらい微笑んでいる。  その時、一際歓声が大きくなった。西側の入口の方からだろうか人垣が移動してきた。  黄色い声、野太い声、シャウト…様々な声が飛び交っているが聞こえる声は全て勇者様と言っている。 「勇者様のおでましか…!!」  勇者様とか、出来れば二度と会いたくないと思うレオンの手を勝手に引いて人垣の最前列迄行く男。  後ろの二人も慌てて追いかけてきたが、はぐれてしまった。  勇者と御対面かよと呆れながら人垣の中心にいる人物を恐る恐る見やった。
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