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「正体を明かしてくれてありがとうございました。これをもって、さっさと消えてください」
淡々と語る田畑。その視線が燐に向けられた。
〝いいよな?〟
そういっているような気がして、燐はうなずいた。信用出来ないが、信用するしか出来ることはない。
首を横に振る理由はない。その視線は光太郎、続いて美奈へと向けられる。二人ともやはり自分と同じ様にうなずいた。
田畑の手からメモリーカードが放たれる。空を舞ったそれは綺麗な弧を描き、まるで吸い込まれるように裕二の手に渡る。
もうこれで元に戻れる、学生だった、普通の生活に。
本当の意味の安堵が押し寄せる。しかし、
「確かに受け取った。それで、これから相談なんだが――」
続けられたその言葉で、ようやく晴れ始めた空に不安と言う黒い雲を憚らさせた。
もう止めてくれ――そんな願いは、現実でも振り出した雨の雑音で掻き消されてしまった。
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