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まだ完全に眠りの影響から脱し切れていない、おぼつかない足取りで冷蔵庫へと近づき、その中から水の入ったペットボトルを取り出す。
蓋を開けてそのまま喉の奥に流し込むと、心地よく冷えた水が身体の中まで清浄に洗い流してくれるように思えた。
次第に、朦朧としていた思考が、はっきりと覚醒してゆく。
そして不意に、カペラは現在の状況を思い起こして、慌てて周囲を見回した。
「レベッカ?――レベッカ!」
カペラはこれまでの旅路の中で、その身を賭けて守ってきた少女の名を呼んだ。
「レベッカ……」
その姿は部屋からは消えている。
まさか、自分が眠っているうちに、『追っ手』に捕まったのか……
心の中を言い知れぬ不安と焦燥が埋め尽してゆく。
その時、不意に足元に触れる柔らかな感触があった。
見下ろすと、パイプベッドの下から這い出してきた小さな黒猫が、カペラの足にそっと触れたのだった。
「よかった……レベッカ、そんなところにいたのね」
カペラは黒猫を抱き寄せて、安堵の微笑を浮かべた。
《おはよう、お姉ちゃん。よく眠れた?》
カペラの頭の中に、少女の声が響いた。
思念による意志の伝達――テレパスである。
驚くべきことにそのテレパスの主が胸元の黒猫であることを、カペラは知っていた。
「ベッドが固いせいで、寝心地はいまいちだったけどね。おかげで、イヤな夢見ちゃった」
《わたしはそうでもなかったよ。このベッド、上より下の方が寝心地いいのかも》
悪戯っぽく黒猫が微笑んだように見える。
その首輪についた銀色のプレートが揺れて、鈍い光を放った。
※ ※ ※
カペラとその黒猫――レベッカとは、共に旅をするようになってもう一月ほどになる。
この廃墟都市よりはるかに離れた街の片隅、薄暗い路地の一角で、カペラは初めてレベッカと出会った。
その日、ようやくありついた仕事の報酬を依頼者に踏み倒されて、カペラの気分は最悪だった。
イライラしながらも、ひとまずなけなしの財布の中身を頼りに裏通りの安い店で食事を済ませ、大通りに出ようとしたその時、目の前をものすごい勢いで黒猫が横切った。
(あちゃあ、縁起悪いな……まあ確かに、今日はとことんツキがないけど……)
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