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「まあ、いいや。本題に入ろうかい」
なおも部屋のあちこちを物色するように見回していた豪田は、一人納得したような顔をして再びソファーに座り直した。
「話というのは他でもねえ、俺の甥っ子のことなんだが……」
深刻な声を出しながら、ミヤケンに向かって身を乗り出す豪田の後ろで、慌てたように天童が声を掛けた。
「わたくし、今回の案件を担当させて頂きます、天童と申します」
豪田は、天童が差し出す名刺に目もくれず、心外そうな顔をしてミヤケンを見詰めた。
「なんでえ、おめえが担当者じゃねえのかい」
「彼は、今日が初仕事となるフレッシュマンでして、あくまでも私のアシスタントでしか過ぎません」
「なあんだ、そうだったのかい。するってえとなにかい?お前さんが所長ってわけかい」
「いえ、所長は女性でして」
滅相もないという顔をして首を振る天童に、心もとなさそうな視線を豪田が投げ掛ける。
「女だあ?ひょっとして、昨日電話に出た姉ちゃんが、ここの所長か」
「そうです。時航警察絡みの案件だと所長から伺っておりますが、甥ごさんと何か関係があるのですか?」
「まあな……」
豪田はそっけない返事をすると、再びミヤケンに顔を向けた。
「村雨誠(むらさめ まこと)という男を覚えてるかい?確か、おめえと同期だったはずだが」
「よ~く覚えてますよ」
一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をして、ミヤケンが答える。
「確か、警視正殿がコネで入れたんですよね」
と言いかけて、危うく口をつぐんだ。当時、桜田門刑事部捜査第一課課長であった豪田に、縁故採用されたと陰口を叩かれていた、バカサメあるいはムラダメという蔑称を持つ、最低の男。
臆病なくせに虚勢を張り、人を出し抜くことは朝飯前、隙あらば事件の手柄を独り占めしようとするので、奴とチームを組みたがる者など一人もいなかった、唾棄すべき孤独な男。
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