時航機の謎 其の弐

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「その村雨が、どうかしたんすか?」 「よりによって、時航警察の候補生になっちまったんだよ」 「……冗談でしょう?」 しばらく沈黙を守った後、ゴギュりと唾を呑み込んでミヤケンが答える。 「俺も冗談だと思ったよ。知ってのとおり時航警察官は、数世紀前の宇宙飛行士同様、千倍近くの競争率を持つ狭き門で、心身ともに優れた人間にしかなれねえ。村雨は俺の甥っ子とはいえ、そういったエリートとは対極にあるダメ男だ。出世したとしても、せいぜいが巡査部長止まりの実力しか持ち得てねえ筈なんだ」 「人事部のホストコンピューターが、狂ったとか」 軽口半分で答えたミヤケンの顔を、ニコリともしないで豪田が見返す。 「たかがコンピューターの故障で、ここまで事が進展すると思うか?」 豪田は、トレンチのポケットから銀色のマイクロディスクを取り出し、テーブルの上に置いた。コインと見紛うほどの大きさの、円形の物体の表面には、砂時計の形を基にデザインされた、時航警察の正式なエンブレムが刻まれていた。 ミヤケンは、親指と人差し指でディスクをつまみ顔の前に掲げると、蝶ネクタイを縦にしたような形状の砂時計の中で、コンピューターグラフィックスの黄金の光が沙羅沙羅と流れ落ちる様子を、目を細めて凝視した。 「TPTS(時航警察官訓練養成学校)の通告書だよ」 「通告書……」 「しかも驚くなよ、今年選出された候補生は僅か十三人だが、やつはその中でたった一人の特待生待遇なんだ。つまり、脱落者が続出すると噂される難関をクリアし、卒業して時航警察官となるコースは、最初から保障されているようなものなんだよ……」 「そいつはめでてえこった」 ミヤケンが、トゲのある口調で答えた。 「喜びこそすれ、懸念することなど一つもねえ筈だ。で、結局警視正殿は、そのことをあっしに自慢しに来たというわけですかい?」 「馬鹿を言うな、この場所にお前がいたのは偶然だろうが」
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