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ミヤケンの度外れた剣幕ぶりに、たじたじとなった天童が弁明するように言葉を続けた。
「まあ気象庁も、よりによってこんな寒い日にわざわざ雨を降らすこともないよな……なっ?」
機嫌を取るように同意を求める天童から視線を外し、銀色のジュラルミンスーツを着た門衛に、何気なく目を向けたミヤケンは、その背後にある入口から出て来た男を見て、思わず声を上げた。
「サメッ!」
その男こそ、不相応にも時航警察の候補生に選出され、おまけに自分の命まで狙われている、村雨誠(むらさめ まこと)本人であった。グリーンオリーブ色をしたダポタボのM51モッズコートを着用し、折り畳んだニューヨークタイムズをポケットに突っ込んだ村雨は、昔のあだ名を呼ばれて、オールバックの髪の毛の下の、従順だが頭の悪そうな赤犬にそっくりな顔をミヤケンに向けた。
「おい、サメ!俺だよ」
「なんだ、ケンちゃんじゃないの!」
村雨はトロンとした笑顔を浮かべると、ヒョコヒョコとした歩き方でミヤケンに近づいた。
「どうしたの?そのみすぼらしい恰好は……」
ボロきれのように濡れそぼったミヤケンの革ジャンを見詰めて、村雨が驚いたように言う。
「警察をクビになったって聞いたけど、ひょっとして、ホームレスにでもなっちゃったのかい?」
「相変わらず、失礼な奴だなお前は。人のことは、ほっとけや」
ムッとしながら、ミヤケンが言葉を続ける。
「それよりも、時航警察の候補生に選ばれたんだってな。おめでとう!」
「何のことかな?」
一瞬、狼狽したような表情を浮かべて、村雨が辺りをキョロキョロと見回す。
「時航警察官は、素性を知られてはいけない存在なんだ。時航警察自体が、テロリストの攻撃対象にもなってるしね。たとえ俺が候補生になったとしても、おいそれと人に明かせるわけないだろう」
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