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「フ~ン、それで、入校式はいつなんだ?」
「明日だよ」
嬉しそうに笑った村雨が、思わず滑らせた口を手で押さえる。
「なるほど、今日はその準備のために、早上がりってわけだな?」
「相変わらず、誘導尋問が上手いね」
空笑いしながら、村雨がミヤケンの小腹をつついた。
「どうだい、久しぶりに会ったんだ、そこいらで一杯やらねえか」
「残念だけどね……これから、娘と会うんだ」
ためらうような口振りで、村雨が答える。
「娘さんと?」
「知らなかったっけ?俺、今、家族と別居中なんだ」
「なんだ、俺と同じように、カミさんに愛想を尽かされたのか」
「そんなことないよ!」
ムキになって、村雨が否定する。
「時航警察官になったら、家族にまで危害が及ぶケースがあるからね、こっちから別居を持ちかけたのさ」
村雨は早口で言い繕うと、話を逸らすようにミヤケンに尋ね掛けた。
「それより今、俺と同じようにって言ったよな?ということは、ケンちゃんも別居してるってわけ?」
「別居だったらまだましだよ、俺は離婚したのさ」
「離婚しちゃったのオッ?」
村雨が大声を上げた。
「その年で離婚はキツイだろ、おまけにホームレスにまでなっちゃって……可哀想に」
「誰も、ホームレスになったとまで言ってねえだろっ!」
犬歯を剥き出しにして答えるミヤケンを、村雨が哀れむような目で見詰めた。
「虚勢を張る必要なんてないじゃないか。そうだ、いい物をあげるよ」
村雨はポケットに突っ込んだニューヨークタイムズを取り出すと、ミヤケンに手渡した。
「これを体に巻くといいよ、新聞紙というのはね、風を通さないから暖かいんだ」
村雨はそう言って背を向けるやいなや、逃げるように足早で立ち去っていった。
「ナメた真似、してくれるじゃねえか!」
「落ち着いて、落ち着いて……」
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