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渡された新聞をグシャグシャに丸め、道路に叩きつけるミヤケンを、なだめるように天童が近寄った。
「今の男が、依頼対象者である村雨かい?」
「そういうこった、相変わらず厭な野郎だぜ」
「どこかで見たことがあると思ったら、カントリーベアジャンボリーに出てくる、間抜けな熊の顔にそっくりじゃないか」
「ヘンリーって奴かい?」
言い得て妙な表現だと思いながら、ミヤケンがゲラゲラと笑った。
「君が言うほど、悪い男でもなさそうじゃないか」
「人を顔つきで判断しちゃいけねえ、一見、善良なお人好しに思えるが、その裏にはドス黒い狡猾な牙を隠し持ってるのさ」
「それにしては、君と妙にウマが合うようだが」
「冗談じゃねえ!奴は誰からも相手にされなかったから、仕方なく俺がチームを組んでやってたんでさあ」
吐き捨てるようにミヤケンが言った瞬間、今の出来事で頭に血が昇ったせいか、それとも雨に濡れて冷えたせいか、朝から患っていた腹痛がぶり返してきた。
「イタタタタタタッ……」
「大丈夫かい?」
下腹を抱えてしゃがみ込むミヤケンを、天童が心配そうに見下ろしているところへ、三つ編みの髪をおさげにしたジャージ姿の小柄な少女が近づいてきた。
「救急車を呼びましょうか?」
シャンペンゴールドの眼鏡フレームに指を掛け、ミヤケンを観察するように眺めまわした後、さらに言葉を続ける。
「それとも、保護施設に運びこんだ方がいいかしら」
「馬鹿野郎、俺はホームレスじゃねえっ!」
ミヤケンが、忌々しそうに少女を見上げた。
「それより桜田門から出て来たようだが、小学生のお嬢ちゃんが何の用だ?迷子にでもなったか」
「私はこう見えても、三十路よ。ドワーフ症候群の犠牲者なの」
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