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「宮田様へのスペシャルドリンク、アルマニャック・オールドヴィンテージXOで御座います」
テーブルに置かれた、チューリップ型の大きなスニフターグラスの底には、僅かな琥珀色の液体が勿体ぶったように注がれていた。ミヤケンが鼻を近付けると、破流静香(はりゅう しずか)に飲まされたコニャックと同じ匂いがした。
「クゥ~ッ、五臓六腑に染み渡るね」
アルマニャックをキュッとあおったミヤケンが、しみじみと目を閉じて独りごちる。
「我が儘を言わせてもらえば、もっと景気良くドボドボ注いで欲しいもんだね」
「当店は、スコットランド辺りにある田舎パブとは違いますので」
ウェイターにお代わりを命じながら、相沢が厚めのメニューをテーブルに置いた。
「御婦人のお飲み物は、何がよろしいでしょうか」
「あたしはドライマティーニを頂くわ、ただしオリーブの代わりにパールオニオンを添えてちょうだい」
「かしこまりました……」
粛然と頷く相沢を尻目に、ミヤケンが忍び笑いを漏らした。
「これだから、素人のお姉ちゃんは……だったら、マティーニじゃなくて最初からギブソンを頼めばいいじゃねえか」
「確かに、マティーニとギブソンのレシピは同じで御座いますが」
顔を赤らめる澄麗をチラリと見ながら、相沢が口を挟む。
「製造法が違います。マティーニはステアするだけですが、ギブソンはシェイカーを使いますから」
「そ、そうよ、生半可な知識で人を見下さないでちょうだい」
ホッとした顔で肩をそびやかす澄麗に、ミヤケンがいつくしむような視線を送った。
「こいつは、知ったかぶりをしたあっしが悪かった。それにしても、そちらのマスターはプロフェッショナルだね。普通のバーテンなら、彼女を未成年者だと勘違いして、ホットミルクを勧めるところだが」
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