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「相沢さんは、一目見ただけで、その人間のすべてを見通してしまうのさ」
寡黙な老バーテンダーに代わって、天童がしたり顔で答える。
「僕は、日本酒を貰おう。それとつまみは適当に見繕って」
「かしこまりました、お二人とも昼食がお済みになっておられないようですから、タンシチューをお持ち致しましょう」
ミヤケンと澄麗が空腹であることを見抜いた相沢が、さりげない口調で言った。
「天童様のおつまみは、いつものやつでよろしいですね」
数分後、赤茶けた備前焼の徳利と一緒に置かれた天童のツマミは、デキャンタになみなみと入った無色透明の水であった。
「なんでえ、日本酒に合うツマミというから、スルメか塩辛でも持ってくるのかと思ったら、ただのチェイサーじゃねえか」
「日本酒の、淡麗精妙な味を邪魔しない肴といえば、やはり繊細な味わいのナチュラルミネラルウォーターに限るのさ」
日本酒を口に含み、目を閉じて味わった後、洗い流すように水を飲む天童に、カクテルグラスを傾けながら澄麗が奇異な目を向ける。
「天童さんも、変わった人だったのね……」
運ばれて来たタンシチューを平らげ、酒をお代わりする二人に向かって、天童が思い出したように声を掛けた。
「さて、酔っぱらわないうちに、ミーティングの本題に入ろうか……」
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