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高校一年生の夏、私は美術部に所属していた。
「ごめん、俺オリマスの仕事あるから、今日はこの辺で」
夏からの部長であり、唯一の二年生であり、唯一の男子部員である先輩は、そう言って夏休みの部活動をよく早退していた。
一年生からの人望が厚い先輩がいなくなると、途端に部の雰囲気があまり良くない意味で緩み、主に雑談をする場へと変わってしまう。
他の部員と仲が良いわけでもなかった私は、いつも少し早めに帰り支度をし、先輩が中庭で大きなオリジナルマスコットを造っている現場を、渡り廊下からこっそり眺めていたものだ。
夏の始めには粗悪な廃棄木材でしかなかった材料が、気温がぐんぐん上がるにつれて日に日に形を成していく。
平面だったのが立体的になり。
木の枠組みだけだったのが、竹も交えて丸みを帯び。
隙間だらけだったところに新聞紙が貼られ。
次見た時には白紙が貼られ。
夏休みが終わった頃には、いつの間にか巨大でカラフルなキャラクターが、校舎の周りにいくつも建っていた。
先輩が他の製作メンバーと仲睦ましく作業を行い、一工程終えた時に全員で喜びを分かち合う光景を、私はただ羨ましく眺めているだけだった。
あの中に入れたら、どれだけ楽しいだろうか。
あの中にいる人達は、今の私には想像もできない達成感を味わっているんだろうな。
その時から、自分でも自覚していなかった「憧れ」というものが、私の中に芽生えていたんだと思う。
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