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雲一つない晴天。春である今では気持ちのいい、柔らかい太陽の光。
一歩間違えると吹いている風により、着ている白衣が飛ばされてしまいそうな程の強風を除けば、今日はとても過ごしやすい1日になるだろう。
バサバサと煩わしい音を立てる白衣を尻目に、ぼうっと空を眺めた。冬が明けた空は、どの季節も同じ筈なのにどことなく明るいイメージを持たせる。
春といえば、と思い出す。
「そういや春ってなかなか暴風警報出ないよな」
誰もいない屋上でそうぼやきながら、残り短い煙草をふかす。
そもそも春の嵐なんて呼ばれているが、中身を見れば北から入ってきた冷たい空気と南から流れてきた暖かい空気がぶつかりあって上昇気流が生まれる。それによって温帯低気圧が急速に発達するために生まれる現象だ。正直やめてほしい。ビルとビルの隙間なんてそれがなくとも強いからほんと迷惑極まりない。
仮にも理科の教師である以上は、現象を否定するなんて以ての外なのだろうけれど。と、ため息を吐いた。
そんな考え事に耽っていたから、この場に人が入ってきた事に今の今まで気付けなかったのだろう。
「今村先生」
無人だと思い込んでいた所為で、ふと聞こえた声にビクリと肩を震わす。呼ばれた自身の名前に振り返ると、5歩分離れた場所に本校の生徒であろう少年が立っていた。
通常なら立ち入り禁止の区画に指定されているこの場に生徒が来ることはまず無い。訝しく思いながらも「なんだ?」と話を促す。
すると目の前の男子高校生はニッコリと笑みを浮かべた。なんだか嫌な予感がする。
「俺はあなたの王子様になりに来ました」
……は?
「えーっと、何を言っているんだ?」
唐突に投げられた爆弾発言に、ひくりと表情筋が強張る。嫌な予感がすると思ったが中身を返せば嫌な予感しかしない。
そもそも王子様ってなんなんだ!? 俺はそんなの求めたことない.....ではなく、俺は男だ。俺はお姫様になった記憶はないし、生まれ変わりでもない。前世なんてそもそも信じていないんだ。
謎の夢物語を語る少年に引きつつ、なにかの罰ゲームか何かかな? きっとそうだろう。と謎の現実逃避へと逃げた。
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