―授業以外で話しかけんな!―

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とりあえず離れたい。そう思って一歩下がろうと思ったが、それは叶わず終わった。何故なら、今いる場所こそが屋上周辺を囲うフェンスのすぐ側なのであって、後方に下がろうとしてもそこに背中と靴がぶつかるだけなのだ。 その状況を知ってか知らずか、数歩離れた先の生徒は、遠慮なくズカズカと近付いてきている。 まさか怯ませておいて殴られなんてしないよな.....と思って目を瞑るも、自分に物理的な痛みが来ることはまずなかった。止んだ足音にうっすらと目を開ければ、ニコニコと微笑んでいる男子生徒の姿が目に入る。 「俺と付き合って下さい」 「は?」 呆気に取られていると、伸びてきた手が後頭部をふわりと撫でる。そのまま前方へ引き寄せられ、そっと唇を塞がれた。キスされたと気付いた時には、すでに離された後だった。 いきなりの事に驚いて逃げようと身動きするも、相手の腕に強い力で抱きとめられていて上手くいきそうもない。 「~~~~っ!!」 ふと合った至近距離の目が緩やかに細められ、ゾクリとした悪寒が這い上がる。それから後頭部を押さえる手の力が一層強まり、離れた唇がもう一度合わさった。 逃げようにもすぐ後ろはフェンスで、藻掻いても拘束する腕はビクともしない。完全に逃げ場を塞がれていた。 ふざけんな!! と、罵声を浴びせたい気持ちもあるが、口を塞がれている今それすらも出来ない。 何なんだコイツ! つーか誰だ! こんな奴見たこと.....はあるかもしれないが、とにかく会って即行キスなんてかますとか意味がわからない。 「あ~~っ!! もう! いい加減は・な・れ・ろ!!」 教師の立場なんて気にしてられない。これは正当防衛だ! と自分に言い聞かせながら、思いっきり相手に向かって頭突きを食らわせてやる。 力加減を忘れた所為で頭がチカチカするが、効果は抜群だったらしい。ふらふらと一歩離れた少年は「いってて…」とおでこをさすりながら、不満そうな顔でこちらの顔を見上げてきた。 「.....なにするんですか」 「なにするんですかじゃない!! ふざけるな! お前なんなんだよ!」 勢いに任せて怒鳴りつけると、相手の生徒は叱られた犬のようににしゅんとした。 「なにってここの生徒ですけど」 「そんなの分かってるわ!!」 うちの学校の制服を着てうちの生徒じゃなかったら即警察に連絡してやる。完全なる不審者じゃないか。
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