7.エピローグ

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 子供のようにはしゃぐ中川を、山井は目を細めて見ていた。  確かに酷い原稿であった。だが、この記事を読んだ人間は、間違いなく今よりボクシングが好きになるだろう。あの試合を見た者が読めば、必ず胸を熱くするだろう。そして、伊庭の次の試合を、ムガベの次の試合を、絶対に見たいと思うだろう。ならば、この記事で良い。 「おい中川、今夜は飲みに行くぜ。おまえの奢りだ」 「ええー? 俺の奢りっすかぁ?」 「あったりめーだ。おまえは俺の仕事を横取りしやがったんだぞ。嫌だなんて言ってみろ、俺様の右フックが火を吹くぜ」  山井がそう言って立ち上がり、ぶんぶんと腕を振り回す。  中川の顔には苦笑が浮かんでいる。 「山井さん、足元がフラついてますよ。もう五十過ぎてるんだから、無茶はやめましょうよ」 「あ? なんだとコラ。まだおまえなんかに負けねぇぞ。やってみるか?」 「やりませんよ。第一、俺と山井さんじゃ階級が違い過ぎる」  中川の言葉に岡村が声をたてて笑い出した。 「中川とやりたきゃまずダイエットしてそのビールっ腹を引っ込めねぇとなぁ山井。ウェイトオーバーで失格だ」 「あ、ひでぇな。そういう編集長こそ、そのメタボ腹をなんとかしないと、還暦まで持ちませんぜ」 「なんだとこの野郎」  岡村が立ち上がって上着を脱ぐ。  山井のほうは相変わらず腕を振り回してやる気満々だ。  中川は懸命に笑いを噛み殺している。  これはどっちが勝っても記事にはなりそうもない。                 - 了 -  
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