第0章

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 俺は、大学を卒業して私立の高校に就職し晴れて社会科の教員になる事が出来た。それも、私立上滝学園の理事長とは遠縁の関係である。県立などの高校とは違い融通が利く。 「玖珂先生。1年間、お疲れ様でした。」  同僚の水沢あおい。他人行儀な物言いだが大学からの友人で、俺の先輩にあたる人なのだが…… 「水沢先生、あまり気取っていると疲れますよ?」  俺は微笑を浮かべながら、あおいと同様に他人行儀な物言いで返答する。あおいは、俺の反応が薄いのが気に食わないのだろうか頬を膨らませて少し怒ったような顔を見せる。 「敦士のくせに……生意気だ」  すっかりご機嫌を損ねてしまった様だ。と言ってもいつもの事で、少し時間が経てばいつも通りのあおいに戻る。 気の合う友人が、少ない俺とは違い持前の明るさと気さくさで周囲からの人気は高く、まるで同性の友人のように思わせるあおいの性格は、たまに羨ましいとも思える。 「そうだ。敦士の1周年記念にティアーズでお祝いしようよ」 「ティアーズでか?陽大さんたちに迷惑じゃないか?あそこは、喫茶店だぞ?」  ティアーズというのは、俺たちが大学生の頃に良く使っていた喫茶店で若い夫婦が経営している珈琲が物凄く美味しいカフェで、何度も通い続けているうちに経営者の夫婦とも親交が深まった……いわばホームだ。  陽大さんとは、ティアーズの経営者で上代陽大さん。奥さんは、超美人バリスタのレオナさん。二人の作り出す雰囲気はとても穏やかで癒しの空間だと俺は思っている。昔は、二人とも恩人の経営するメイド喫茶で働いていたらしく、その時から名物扱いを受けていたらしい。 「という訳で、来ちゃいました!!」 「来ちゃいましたって……あおい、あんたって本当に変わらないね……大学生のまんまだ」  カウンターに座っていたレオナさんが振り返り、あおいを見ながらため息を吐いていた。レオナさんの気持ち、お察しします……俺も苦労してるんで……。 「レオナさん、せっかく来てくれたのに……いらっしゃい、あおいちゃん、敦士くん」  奥から顔を出して招いてくれたのが、陽大さん。至って普通……いや、悪くはないんでけど……レオナさんほどの美人と結婚した人とは思えないほどの普通さ……。いい人である事に間違いはないんだけど……同じ男として少し納得がいかないと感じる。
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