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軍隊が瓦礫に手こずるのを確認し、崩れかけているビルに隠れ、インカムの電源を入れる。
『キドウ カンリョウ。タイチョウトツナゲマス。
・・・No.10。今すぐ戻ってこい。』
単調な機械音声の次に、冷静な男の声が流れる。
No.10がそれに返したのは・・・
「・・・いやだ。偽善を振り撒いて生きる奴の元にいたくない。」
否定の言葉。
『・・・それは我が儘か?』
「・・・最初で最後の口答えでもあり、我が儘でもある。・・・さっきもいったように、僕はお前の元に付きたくない。だから、ここで自殺する事にしたんだ。」
ふっと笑い、ビルから出てくると、軍隊の一人がこちらに気づいたようだ。
『・・・ふざけた真似をするな。お前は我が軍隊の兵器だ。勝手な行動は許さない。「いたぞぉぉぉ!No.10だ!捕まえろ!」さて・・・話はいくらでも聞いてやる。大人しく帰ってこい。』
軍隊が向かってくる音に勝ち誇ったような声を出す隊長。
だが、そんな隊長に応答するNo.10の綺麗に透き通る声もまた冷静で、感情が読み取れない。
「・・・今、高低差6mある崖の淵に立ってる。兵器は兵器でも、元が生き物の場合、下に飛び降りれば死ぬ。それがどんなに最強に改造したとしてもだ。もう、わかるよな?さようならだ。」
『っおい!ま』
先程とは一変し、焦燥した隊長の声が遮断される。
No.10のインカムの電源が落ちた・・・否、No.10が電源を落としたからだ。
「No.10!・・・俺はお前を殺したくないんだ。頼む。一緒に来てくれ!この戦争にお前は必要なんだ!」
気がつけば軍人はすぐそばで、すぐそこで悲壮感に満ちた声と表情で手を差し伸べていた。
が、腕に触れる寸のところでNo.10はその手を払う。
「結局は戦争第一か、人間。僕は一応生物であり、人だ。誠実な主でも親でもないやつに僕を従わせる筋合い等ない。ましてや自害しようが本来お前らには関係無いんだ。」
そんなNo.10の言葉に、軍人全員が戸惑って何も言い返せない。
「・・・人は変わる。お前らも、親も、自分も・・・」
そういって飛び降りたNo.10の表情は、最後の最期まで歪むことなく緋色に染まった。
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